研究内容

1.成層流

 密度の異なる水平な流体層が、鉛直方向に重なってできた流体が「成層流体」です。最も簡単な例は、水と油の「二層流体」です。実際には、密度は鉛直方向に連続的に変化していることが多く、「連続成層流体」と呼ばれます。これらの成層流体では、浮力の働きにより、しばしば特徴的で特異な流れが現れます。

 地球の大気や海洋は典型的な成層流体であり、大気や海洋の流れは、「成層」の効果と、地球の自転に伴う「コリオリ力」の効果によって決定されていて、これらの効果を考える分野は【地球流体力学】と呼ばれ、地球物理学の根幹を成しています。

 成層流体は、工学面では、液化天然ガスタンクや、淡水化プラント、蓄熱槽、あるいは原子力プラントなどの大型設備などで自然に発生し、それに伴う事故を防ぐための予測と制御が必要となります。

 また、成層流体中を物体が鉛直移動すると高速の「ジェット」が生成され、それに伴い、物体に働く抵抗も通常の数10倍に増加します。本研究室が発見したこの性質は、海洋観測に革命をもたらした深海観測のアルゴ・フロートの設計に用いられた他、海底油田の事故に伴う油滴の移動予測、あるいは、地球温暖化に影響する海洋中の炭素循環をになう動物プランクトンの移動予測などに用いられています。

 本研究室では、マランゴニ効果(表面張力の効果)による微小液滴の運動など、active matter(自律的に動く生物のような物体)に関する研究も行っています。

 

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鉛直降下する球によるジェットの生成(click→動画

流体の鉛直密度差と、球の移動速度によって、後流(ジェット)のパターンが異なる。

 

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シャドウグラフ法による可視化(click→動画

実験条件によっては、ジェットのまわりに特異な「bell型」の構造が現れる。

 

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球を横切る等密度面(数値シミュレーション:click→動画

塩分などの分子拡散によって(球面付近の)密度が変化するため、等密度面に穴が開く。

 

 

2.乱流と渦

成層乱流や回転乱流などの乱流中の物質や熱の輸送を研究しています。例えば海洋では、塩分と熱の拡散係数は100倍も異なるため、その拡散の度合いの差が乱流構造にも大きな影響を与えます。そのような効果を、水槽実験、数値計算、理論解析により研究しています。地球上の多くの流れは乱流であるため、乱流に関する研究は、大気や海洋中の物質拡散の予測や、工学的な応用にとって極めて重要です。

 

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成層流体中の塩分濃度のレーザー計測(Laser Induced Fluorescense,click→動画

水平断面を蛍光染料によって可視化→成層流体では、浮力によって鉛直運動が抑制されるため、時間と共に水平方向に大きな渦が形成される。

 

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成層乱流の数値シミュレーション(塩分濃度分布)

乱流中には非常に小さい構造が生成されるため、スーパーコンピュータを用いた大規模計算が必要となる。

 

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渦柱の不安定化(ジグザグ不安定)の数値シミュレーション(click→動画

静止状態では安定な成層流体でも、その中の渦は不安定化する。

 

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地球のような回転球面上の渦運動の数値シミュレーション(北極側から見た図、click→動画

極の周辺には、地球の自転効果により、(冬季には)極渦と呼ばれる大規模渦が形成される。

 

 

3.波動

水面波は、津波に代表されるように、大規模災害と密接に関係しています。津波は、波長が長いほど伝播速度が速いため、震源(波の励起源)から海岸付近まで、水面がほとんど平らな状態で到達してきます。しかし、海洋の平均水深は5000mもあるため、水深に対してわずか0.5%の隆起が25mの巨大津波となってしまうのが恐ろしい点です。また、船舶においては、船が波を生成することによって生じる造波抵抗を減らすことが、摩擦抵抗の低減と並んで大きな課題です。

また、流体内部の波は、外から見えないために直接観察するのは難しいですが、大気や海洋中には、浮力を復元力とする内部重力波が満ちあふれています。内部重力波は、山岳や海嶺、あるいは、流れ自身の不安定性によって生成されますが、よく目にする海洋表面の波などに比べ、桁違いに振幅が大きいのが特徴です。例えば大気中では、水平運動量を地表から成層圏まで鉛直伝播させ、成層圏の大気大循環(偏西風など)を変化させるなど、地球規模の大気の流れに重要な役割を果たしています。また、山岳波や晴天乱流の原因となって航空機の飛行に影響し、海中では大振幅で波長の長い孤立波を形成して、潜水艦の航行に大きな影響を与えます。

 

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左からの流れ(流速U)がある時、山岳や海嶺などの地形によって励起される波(概念図)

流速Uと、波自身が持つ伝播速度が一致すると、共鳴によって大振幅の波が上流側にも励起される。

 

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地形によって励起された、水面波(表面波)と、非常に短波長の表面張力波(数値シミュレーション)

表面張力効果も考慮すると、波の伝播速度が変化し、短波長の表面張力波が同時に現れる。

 

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地形によって流体内部に励起された内部重力波(数値シミュレーション)

成層流体の内部には、水面波(表面波)とは比較にならないほど大きな振幅の内部重力波が内在している。